創業家から事業承継の要員としてバトンを受け継ぎ、二代目社長に就任したのが15年前。創業家との血縁関係はない。

それまでの社長との明らかな違いは、私自身が学生時代からマンガを描き同人誌の発行を手掛け、さらに縁に恵まれ1年間だけだがプロ漫画家として4コマ月刊誌への連載を経験していたこと。
その頃から本に携わることへの想いが強く、別の印刷会社で働いていたとき先代から誘いを受け栄光に転職することになりました。栄光へ辿り着くまでのこの25年間は、競争の厳しい商業印刷・商業出版業界の企画・営業畑で鍛えられ貴重な経験を積むことができました。学生時代からのすべての経験が“新しい栄光”として舵を切るうえでとても役に立つことになるのです。

原稿にまつわる失敗ポイント、装丁・印刷での注意点、締切に対する思い。お客様、作家様の気持ちはよく分かります。自分がその立場でもがいていたからです。だから印刷会社都合のルールではなく、お客様が使いやすい逃げ道のある包容力のあるルールを作るよう心掛けました。

一方で“二代目社長”といっても、私自身もサラリーマン。働く側の気持ちもよく分かります。昭和の高度成長時代は仕事があふれ眠れない日々を過ごし、日曜日も仕事で駆り出され現場の手伝いをしました。眠れない辛さ、休めない辛さは身に染みて分かります。当時は時代に駆り立てられ躊躇なくモーレツに働きました。しかし、こんな経験は今の社員にさせるわけにはいきません。

同人誌の注文は大イベント時に集中します。段階的な割引誘導で入稿を分散し、工程管理システムの精度を上げ適切な人員配置を徹底。シフト勤務、多能工で生産効率を大幅に向上しました。社員に過度の負荷がかからないように問題を1つ1つ解決したことで、定着率は飛躍的に改善。約三分の二の社員が10年以上のベテランとなり、品質は安定して初歩的なミスは劇的に減少しました。

栄光は同人誌業界の中では有名になり、新卒者募集を出せば全国から数十名の応募を得ることができるユニークな存在になりました。
問題はこれからです。栄光も私も昭和、平成、令和と生き抜いてきましたが、コロナ禍以降の印刷業界周辺の変化は恐ろしいものがあります。地殻変動のような予測不能な変わり方だと感じています。出版社の収益モデルはすでに“紙”からではなく“電子”からだと聞いています。身の回りの書店は消滅し、出版社は本の販売部数減少を電子化と発行タイトルを増やすことで凌いでいます。一般の印刷会社は紙の印刷が減ることを止めることはできません。

私の次のミッションは、栄光の物理的・人的な資産を活かして時代の変化に飲み込まれることなく舵を取り、これからを担うにふさわしい人材採用と育成に努めていこうと考えています。